根拠の無い悪しき先入感で、棚には目をやるだけだったMaster and Commander / The far side of the world を観て、なるほどアカデミー撮影賞等を受賞するわけだと得心。過去へ遡ってデータを綿密に調査して見えてくるイメージのリアリティーの顕現には、ささやかなものの蓄積が必要不可欠。その豊かさの裏付けがあってはじめて、短絡的な想像を越えたスーパーヴィジョン(史実)となるというお手本のひとつ。日本の過去を扱う作品も、こうした事実描写の積み重ねに積極的にアプローチすれば、どこに出してもハズカシクないモノが出来るはずだが、どうも感情移入できる俳優やエピソードへ偏る傾向がある。
ガラパゴス上陸を除けば、すべて船上というシンプルなロケーションを、巧みな脚本とキャメラで物語を紡いでいる。ただ、メタフィジックなエピソードには、娯楽作品へ仕上げるための媚が伺える。事実のデータとリアリズムの結合を欲望する映画監督に頭がさがるけれども、もっと乱暴に放りだしてほしい。
Talk to Her冒頭にピナ・バウシェ。