ー「目論むようなつもりはなかった。だがそう捉えられても仕方がない。どうも偶然に流れているだけなのだが、この躯の動きが、ぎこちなく固まることがあって、反発するみたいにそれが弾ける」ー
しきりに弁明していた。相手は、とても親しい人間であることはわかるが、それが誰なのかを失しなっており、そのこちらの喪失を相手は理解していることが彼のカラダの輪郭で、わかるのだった。彼は、黙って哀れむような、けれどどこか諭すような表情を首下に漂わせていた。両脇にさがった両腕の甲の血管が膨れ、その静かに動く指先に向かって、こちらは、再び懺悔のような許しを繰り返しながら、その反復が心地よい時間であるなと感じるのだった。
次は、質にこうしたことを孕む必要がある。
午後、日が暮れる頃、やはり初期の古井由吉に手を伸ばしていた。