暖炉の中には、この冬最後の燃え残りと灰がまだあった。
 灰をかき出す鉄の小さなシャベルが、きちんと脇にぶら下げてあり、その横にはまだ部屋を暖めることのできる薪が重ねられ、崩れ落ちないように針金で小さく幾束かにまとめられている。家の外の北側に回ればきっともっとある。

 入口のある南東は一面カーテンの無い床から天井までの二重窓で、屋根が大きくせり出しているので庇の役目をして、この季節のこの時間は丁度部屋の半分ほどまでしか陽がとどかない。床に引かれた陽射しの境界線の明るい部分には、何も置かれていないが、奥のキッチンの小さな机の足にだけ、陽が届いていた。

 リビングの中央には割合大きな机がひとつあり、椅子に座ると並んだ窓に向かう格好になる。窓の外には倹しい雑草の生えた庭とその向こうには雑木林が見える。ここからは停めた車がみえない。背後はすべて書棚となっていて画集や小説や難しそうな題名の書籍や、CD、DVDなどが隙間無くぎっしり並んでいる。机の上も片付けられていたけれど、幾つかの小さな置物は憶えがあった。離れて置かれてあったソファにバッグを放り投げてから身体を沈め、寝転んでもう一度部屋を見渡し、夜になってカーテンがない暗い窓を眺めても怖くなかったのは、お前がいたからね。近づき前足に頭を乗せてソファの前に横たわったポンタの身体を撫でながら、わたしは眠くなった。